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愛猫に支えられながら。多頭飼育崩壊の現場から猫救助 #いい部屋ペット

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tomoさんの愛猫「ごま味」ちゃん

お世話しきれない数の動物を保護したり、不妊去勢手術をしないことで繁殖し続けてしまう多頭飼育による問題。とくに高い繁殖力をもつ猫では深刻化しやすく、いわゆる「多頭飼育崩壊」が、全国各地で起き続けています。これまでは「動物の飼い方の問題」として捉えられがちでしたが、飼い主自身も生活状況が悪化して心身の健康状態が蝕まれたり、地域の中で孤立化したり、精神疾患や貧困などの要因が複雑に絡み合っている場合があり、最近では、人と動物、地域にまたがる「社会の課題」として知られるようになってきています。

今回は、大切な愛猫の存在に支えられながら、多頭飼育崩壊の現場から猫を救助し、譲渡へつないでいる個人ボランティアのtomoさん(写真家 @tomochunba)にこれまでの活動で見てきたことや救助した猫たちへの願いを訊きました。

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現場の清掃や猫たちのケアを行いながら、少しずつ救助を進めていった

ーtomoさんは、岐阜県内で起きた多頭飼育崩壊の現場から猫を救助し、現在も保護した猫たちを譲渡につなげる活動を行っています。そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

長年、岐阜県内で保護猫活動をしている青井さんから相談を受けたことがきっかけでした。青井さんとは以前から交流があって、青井さんが保護した猫を私が預かり、新しい飼い主さんへつなぐ活動をしていました。

もとの経緯を辿ると、多頭飼育崩壊させてしまったある飼い主から、飲食店を経営する猫好きの夫婦に相談があり、その夫婦から青井さんへご相談という流れでした。現場の猫の数は約40匹。ピーク時には約70匹いたそうです。最初に別のボランティアの方たちが全匹に不妊去勢手術をし、30匹を引き出しました。しかし、残された猫たちは一人暮らしの飼い主がお世話をしている状況でした。

とても一人でお世話できる数ではありません。壁は爪とぎでボロボロ、一部の床が糞尿で腐り、異臭を放つ部屋に猫たちは閉じ込められていました。人が住める状態ではないので、飼い主は別の家に移り住み、昼間は仕事、朝と夜に猫たちのお世話に来る生活を送っていたそうです。

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救助を開始する前の多頭飼育崩壊の現場の様子

ー多頭飼育による問題を起こしてしまう飼い主は、高齢世代の割合が高いことを示す統計もありますが、今回の崩壊元の飼い主は若い方だとお聞きしました。どのような背景があるのでしょう?

今回対応にあたったのは、精神的な疾患を抱えた飼い主が物事の優劣を判断できず、気が付いたらあっという間に猫が増えて、生活が困窮してしまったケースでした。誰にも頼れず一人暮らしを続け、支援の申請もしないままだったそうです。猫のことだけではなく、その方自身にも周囲のサポートが必要だったのだと思います。

多頭飼育崩壊では、飼い主が所有権を手放さないことが問題になりやすいですが、今回は飼い主自身からの相談ということもあり、合意のうえで猫の救助と譲渡を進めることになりました。

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「ことら」くん。この春、新しい飼い主さんのもとへ

ー現場にいた猫は1匹ずつ順に連れ出し、現在は全匹救助したそうですが、期間はどれくらいかかりましたか? まだ飼い主さんを募集している猫もいますよね?

私が関わり始めた2019年10月には残りが36匹。それから2020年12月まで、全匹救助するのに1年2カ月かかりました。

私と青井さん、最初に相談を受けた夫婦とで毎日交代して現場の掃除と猫の健康管理を行い、とくに体調ケアが必要な子は、自分たちの家でお世話をして動物病院で治療を行いました。それと並行して、預かりのボランティアさんと譲渡希望者の募集、猫の搬送、支援物資や支援金のご協力の呼びかけ、譲渡後の飼い主さんのサポートをしてきました。

これまで、新しい飼い主さんのもとへお届けしたのは26匹。残っている子たちは、預かりボランティアさんにお世話の協力をしていただきながら、飼い主さんを募集しています。

ーtomoさんのお宅には、ごま味ちゃん(愛称:ごまちゃん)がいますよね。保護した猫たちとの関わりもあるのでしょうか?

ごまちゃんは、これまでにわが家で保護してきた猫たちと一緒に過ごしてきました。

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tomoさんの家でくつろぐ「てな」ちゃん(手前)と、ごま味ちゃん。てなちゃんは、その後新しい飼い主さんのもとへ

今、うちには崩壊現場で1番怖がりだった「かもめ」がいます。人にはなかなか近づかないのに、気が付くとごまちゃんがかもめくんの側にいることがよくあるんです。「安心して大丈夫だよ!」と言っている気がして、私はこれを“ごまセラピー”と呼んでいます(笑)。

ご飯やオヤツの時間になると、ごまちゃんが大きな声で「早く早く!」と鳴き、かもめもつられて私の方へ寄ってくるようになりました。猫の言葉は私たちには「にゃー」しかわからないけど、猫同士はやはり何を言っているのか、わかるものなんですね。

猫を安心させてくれるごまちゃんは、大切な家族であり、頼れる存在です。本人は毎回保護猫がやってくると、いつもより特別なオヤツをもらえるので、それがとっても嬉しそうです。優しくて、賢くて、食いしん坊なごまちゃん。私の保護活動はごまちゃんがいなければ成立しません!

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ビビりな「かもめ」くん。「オヤツが欲しいときにすごくすごく小さな声で鳴いていたことが最近わかり、たまらなく愛おしいです」とtomoさん

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“ごまセラピー”の様子

ー崩壊現場の猫たちを譲渡につなげるには、健康状態の回復が課題にあるかと思います。現場では、猫たちはどのような状態でしたか? また、ケアで苦労をした面はありますか?

長い間、過酷な環境にいたためか、体調が悪い子も多くいました。この子たちの年齢ははっきりわかりませんが、3~6才前後。狭い空間で食事を取り合いながら必死に生きているので、どうしても猫同士のケンカが起きてしまいます。眼球が傷付いて白濁した子もいれば、腐って無くなってしまった子もいました。耳の傷のギザギザは、ケンカでできたものだとすぐにわかりました。

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耳にギザギザが残る「くじら」くん。2020年の夏に譲渡

1番大きな課題は、口内炎が酷い子がたくさんいたことです。36匹中11匹は、抜歯手術が必要でした。「ご飯を十分に食べられない→栄養が足りず口内炎が悪化→口が痛くてご飯が食べられない」といった負のループに陥っていたんですね。中には痛みで狂ったように叫び、ヨダレを垂らしながら部屋中を走り回る子もいました。片道1時間かけて現場へ行き、3~4時間かけて掃除をして、栄養の足りない子たちに柔らかいご飯をあげる。それだけで疲労困憊ですが、辛そうな猫たちの姿を見ることが特に精神的にキツかったですね。

抜歯は手術時間が長いので、病院を分散させて症状が重い子から順に行っていきました。手術後、しばらく投薬が必要な子もいましたが、概ねみんな時間が経つにつれて口の環境もよくなり、元気にカリカリをたくさん食べられるようになりました。現場ではトイレでうまくおしっこができなかった子も多かったですが、新しい環境では粗相も止み、問題なく過ごせています。

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口内炎の痛みで、思うようにカリカリを食べられなかった「夢」ちゃん。全抜歯手術を行い、ステロイドと抗生剤を投薬

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食欲が回復し、見事な美猫に。現在は新しい飼い主さんのもとで投薬なしで暮らす

ー過酷な環境で過ごした猫たちに、どれからどんな風に過ごしてほしいですか?

この子達みんなが、心から安心して暮らせるおうちへつないであげたいです。

崩壊現場出身の猫たちは、眠るスペースもご飯もほかの猫と取り合いながら、閉鎖された空間で過ごしてきました。あたたかく居心地のよい場所で、安心してゆっくり眠ること。ご飯をお腹いっぱい食べること。飼い猫には当たり前なことが、あの子たちにとっては「すべてが新鮮」なんです。

だからこそ、譲渡後のおうちで大きな窓からお庭の様子を眺めている姿を見たとき、救助できて本当によかったと思いました。

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新しい家で、外の景色を楽しむ「すりみ」ちゃん(写真は現在の飼い主さん提供)

送り出す私も、新しい飼い主さんが「この子のために」と用意してくれたふかふかなベッド、きれいなキャットタワー、すべてに感動してしまいます。必要なものを揃えていただき、猫にとって暮らしやすい環境を考えてくださっていることが、本当に嬉しいです。猫が暮らしやすい家は、人にとっても暮らしやすい環境。猫の誤食・誤飲に気を付けて物を片付ける癖もできるので、自然と部屋の中が綺麗になりますもんね。

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「猫用の脱走防止柵を作ったご家族も多くいらっしゃいます。猫をきっかけにパパがDIYに目覚めた!だなんておうちも」

たくさんいた子達も、あと10匹になりました。免疫介在性溶血性貧血で治療中の「つばめ」や、崩壊現場にいた時は攻撃的だったけれど、預かりをしている青井さんのもとで心を開いてくれた「きりん」もいます。病気を持った子や人を怖がる子であっても、根気よく携われるボランティアがいれば、絶対に譲渡できないということはないと思っています。

「どんな子でも幸せになれる」。そう思えるのは、私自身に心臓病を抱えた猫との暮らしや、お世話してきた保護猫たちとの経験があるから。きちんと愛情をかければ猫にもその想いが伝わり、信頼してくれるようになります。年内には残りのすべての猫たちに、これからの本当のおうちを見つけてあげられるよう頑張ります!!

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免疫を抑える治療中の「つばめ」くん

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「きりん」くん。「この1年で人に寄り添うこともできるように。当時と比べると別猫のよう」とtomoさん


写真/tomoさん 構成/本木文恵
Instagram:@tomochunba (tomoさん)
Instagram:@comugineko (猫たちの詳細を載せたアカウント)
Twitter: @comugineko

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